
「相続の手続き」というとなんだか難しそうと考える人もいるかもしれません。そもそも、相続自体が普段から頻繁に行うことではないので、いざ相続での手続きが発生すると、どうしたら良いのかわからず困ってしまう人がほとんどでしょう。そこで今回は2級ファイナンシャルプランナー(FP)の資格を持つ筆者が、相続に直面したときに知っておきたい相続手続きの流れや相続税について紹介していきます。
相続手続きの簡単な流れを押さえておこう
ポイント!言葉の説明
被相続人とは……亡くなった人
相続人とは……被相続人から相続財産を受け継ぐ側の人
死亡届(死亡届書)とは……死亡者の死亡地・本籍地又は届出人の所在地の市役所、区役所又は町村役場にだす届書。死亡の事実をしった日から7日以内に行う必要があります
被相続人が亡くなったらすみやかに死亡届を提出
被相続人が亡くなったら死亡届の提出や住民票の抹消届など、さまざまな書類を役所に提出しなければいけません。これらは亡くなったという事実を報告するための作業です。この作業とともに始まるのが、相続手続きになります。簡単にいうと、亡くなった人の財産を引き継ぐために行う手続きのことです。
相続手続きの流れは大きく6つのステップ
相続が開始したときに慌てないために、どんな手続きになるのか一般的な相続の流れをご紹介いたします。
(1)遺言書などがあるかどうかの確認
亡くなった人の意向に沿った相続財産の分割が行える遺言書は、相続の際に最も優先されます。もしその内容に納得がいかない場合は、話し合いや最低限の相続分を請求できる遺留分減殺請求によって調整できることもあるので、その際は弁護士に相談してみてください。
(2)相続人の特定
相続人となれるのは、基本的に亡くなった人の法定相続人のみとなります。
ポイント!言葉の説明
法定相続人とは……民法で決められた相続人のことで、主に配偶者や子ども、兄弟姉妹です
ただ、以前の結婚のときに子どもが生まれているなどさまざまなケースがあり、相続人が特定しにくい場合もあります。そういった際は、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をチェックすることで相続人の特定ができます。
(3)どれだけの財産があるのか調査
亡くなった人にどれだけの財産があるのか調査しなければいけません。一覧で保有財産を確認できるものはないので、家にある通帳や取引明細などを確認しながら特定していくという作業になります。
(4)遺産をどのように分けるかの話し合い
亡くなった人の財産が特定できたら、その財産を相続人間でどのように分けるのか話し合います。話し合いができない、まとまらないという場合は、家庭裁判所の調停を利用することもあるでしょう。
ポイント!言葉の説明
調停とは……当事者と利害関係のない公平・中立な第三者となる調停人が当事者の間に入り、和解の成立を目指し協力する制度
(5)相続財産の名義変更手続き
相続人間で話し合いが終われば、相続財産の名義変更手続きや解約などの手続きが必要となります。これらは金融機関など、それぞれの機関での手続きとなります。その際は突然来店して「相続手続きをしたい」と伝えるよりは、事前に電話連絡し相続手続きに必要な書類や流れなどを聞いておくとスムーズなのでおすすめです。
(6)相続税の申告
相続財産の総額が相続税の基礎控除額を上回ったり、相続税の特例などを利用したりする場合は、申告が必要となります。その場合は、亡くなったことを知った日から10カ月以内に申告をしなければいけません。
以上が相続人同士もめごとなくスムーズに進んだ際の流れとなります。
ここからは誰が相続人になるのか、また相続税はどういったものなのかを詳しく解説していきます。
相続税とはどんな税金なの?
そもそも相続人は誰?相続税は誰が支払うの?
配偶者は常に相続人になる
相続人は家族形態によって相続する優先順位が変化しますが、常に相続人になるのは配偶者です。
配偶者以外の法定相続人は優先順位第3位まで決められている
配偶者がいない場合や配偶者以外が法定相続人になるには、優先順位をもとに決められます。優先順位は第1位から第3位まで決められており、亡くなった人から見て第1位は子どもである直系卑属、第2位は親や祖父母の直系尊属、第3位は兄弟姉妹です。直系卑属とは亡くなった人から見て後の直系世代のことで、子どもや孫などです。直系尊属とは、亡くなった人より前の世代の直系親族を指します。先順位がいなければ後順位の人が相続人になるという仕組みになっています。
相続税は相続人がそれぞれ支払う
相続税の支払いについてですが、相続税は相続人それぞれが支払います。相続税の基礎控除額内であれば申告が必要ない場合もあるので、相続税が発生するかどうかは相続人の状況次第です。
相続税とは?
相続税とは相続する財産に対して課税されるもので、また相続税の基礎控除を上回る金額に対して課税されます。相続税の基礎控除額の計算方法は下記の通りです。
ポイント!相続税の基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の簡易計算方法
例えば、相続人が配偶者と子ども2人の計3人
相続財産が全部で5,000万円だったとします。
計算式に当てはめてみると、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
相続財産5,000万円-基礎控除額4,800万円=200万円
上記の場合は、200万円に対して相続税が課税されます。
相続税の調べ方
相続税の基礎控除額以外にも、死亡保険金の非課税枠などがあるので、そういったものをすべて考慮すると相続税がかからない場合もあります。
相続税がいくらくらいになるのか簡単に知りたい人は、「相続税シミュレーション 銀行」などとインターネットで検索すると、各銀行ホームページよりシミュレーションが可能です。各項目に入力するだけで、大まかな金額がわかるので便利です。
相続税の形態とは?
相続には3つの形態があります。どういったものか知っておきましょう。
(1)相続
法定相続人による相続で、亡くなった人の財産を引き継ぎます。主に遺言がなく財産を引き継ぐ場合です。
(2)遺贈
亡くなった人の遺言による贈与のことをいいます。そのため相続権がなくても受け取りが可能です。また、遺贈を受ける人は遺贈の権利を放棄することもできます。遺贈は「贈」という漢字を使っていますが、贈与税ではなく相続税の対象となるので注意が必要です。
(3)死因贈与
死因贈与とは、死亡したことをきっかけに贈与することをいいます。簡単にいうと「自分が死んだら○○をあげる」といったものです。相続権がなくても受け取る側の承諾によって成立する契約なので、法定相続人以外でも口約束でもOKです。ただし口約束の場合、なにも証明するものがないので相続人ともめる可能性もあります。死因贈与を考えている場合は、公正証書を作るのがおすすめです。死因贈与も贈与と書いていますが、贈与税ではなく相続税の対象となります。
どの財産にも相続税がかかるの?
相続税の計算対象となるもの
相続税の計算対象となる主なものは、不動産、現金、預貯金、株式、小切手、自動車、宝石、美術品などです。
財産がマイナスの場合は?
相続は現金などプラスのものばかりではありません。
亡くなった人の借金や住宅ローン、未払いの所得税、医療費なども相続税の計算対象となります。そのため、プラスとマイナスの財産をすべて合わせたときに相続財産が負債となってしまう場合もあるのです。そのときは相続放棄を考えた方が良い場合もあるので、税理士や弁護士と相談しましょう。相続放棄は自分が相続人になったと知ってから、3カ月以内に相続放棄の手続きをしないといけません。親族が亡くなって自分が相続人になる可能性がある場合は、早めに財産の確認をしておきましょう。
まとめ
- 相続はいざという時に備えて家族間での話し合いが重要
- 相続は人の死が関係することなので、元気なうちはなかなか話しづらいものです。しかしいざ相続手続きをしようとしたときに、「財産がどれだけあるのか」「負債はあるのか」などわからないことばかりでは、相続人の手続きが大変になります。もしものときに備えて、「どこの銀行で取引している」とか「なにかあったときはここに書類一式を収納している」など家族間で情報を共有しておくとスムーズです。